標高2799mと3000mを越える山々が連なる南アルプスでは地味な存在の山が「アサヨ峰」。
標高が低いことで、森林限界が高い南アルプスではハイマツ漕ぎも交え格闘しなければならない山。
しかし、山頂からの眺望はまさに「南アルプス北部の展望台」と言っても過言ではない!
経由する栗沢山も同じく素晴らしい展望台ですが、唯一大きく違うのがアサヨ峰では「富士山」が望めること。
しかし、鳳凰三山から早川尾根で繋がるメジャールートのアサヨ峰へ繋がる登山道は意外と厳しい。
栗沢山からアサヨ峰へ至る登山道はアップダウンが激しく、お隣の甲斐駒ヶ岳直登ルートよりも厳しいルートだと人によっては感じてしまう程。
しかし、その眺望の良さに全てを忘れてしまうことは間違い無いでしょう。
栗沢山、宇多田ヒカルさんの効果なのか、最近ではサントリー南アルプスの天然水のCMロケ地として少しだけ有名になりました。
日本二百名山であるアサヨ峰も知られつつありますが、北沢峠へ行く登山者の多くは「甲斐駒ヶ岳」と「仙丈ヶ岳」が目的。
アサヨ峰や栗沢山を登る人はごく少数なのが残念ですが、逆に静かな山行が約束されます。
今回は栗沢山とアサヨ峰から望める絶景を中心に、登山道の状況や注意点を細かく解説します。
本当に「絶景」なのか?その目で確かめて、そしてチャレンジして下さい♪
既に何年も放映されている「サントリー南アルプスの天然水CM」。
CM最後、宇多田ヒカルさんが、栗沢山の山頂から甲斐駒ヶ岳へ向かって「ありがとう」って流れる場面、最高ですね♪
登山道具の整理に便利! こんな箱知ってました?
栗沢山・アサヨ峰の登山データ
この記事に関するデータです。
■時期 | 夏山(7月~8月) |
■移動手段 | 自家用車 |
■利用駐車場 | 市営芦安駐車場 |
■移動 | 長衛小屋で前泊 |
■登山開始時刻 | 5時00分 |
■登山終了時刻 | 13時40分(早川尾根~広河原下山) |
■活動時間(休憩含む) | 8時間40分 |
■本内容のペース | 休憩含まない「CT 8時間28分」に対し「1.02」~標準 |
活動時間に関する注意点!
今回巡ったルートは北沢峠から入山し、広河原へ抜ける縦走ルート。
通常はピストン行程が多いのですが、広河原へバスで戻るパターンだと非常に便利なルートとなります。
なお、標準CTに対しほぼ同じ時間での山行結果ですが、山頂での滞在時間は通常の数倍。
栗沢山、アサヨ峰の両峰共に南アルプスの展望台と異名を持つほどの眺望で、二座合わせての滞在時間は1時間30分を超えています(通常は一座10~20分程)。
この山へ登る際は、山頂滞在時間が通常よりも多くなることを覚悟し、余裕を持った計画を立てましょう(笑)。
栗沢山・アサヨ峰の3D登山ルート
今回のルートを3D動画にしました。迫力ある動画と登山ルートの高低を確認しましょう♪
自身の山行を3D動画に出来るReliveの使い方こちらから。
アサヨ峰・栗沢山への登山ルートガイド
初心者を意識した登山ガイドとなるため、少し細かく長いですが写真は綺麗です♪
必ず行きたくなりますが、実際に登山を行う際は再度見直して下さいね。
登山口のルートは2つ
これは単純に入口と出口の関係となります。
通常は北沢峠から入山し、北沢峠へ戻るピストンのパターンが多いでしょうが、今回のように広河原へ下りることも可能。
即ち、広河原から登ることも出来るという2つのルートがあります。
- 北沢峠から登るルート
- 広河原から登るルート
これとは別に、鳳凰三山から早川尾根を辿るルートと、広河原峠の隣にある白鳳峠を利用するルートもありますが、この山を単発で登るルートとしては一般的では無いので割愛します。
ここでは、北沢峠から入山し、広河原へ下山するルートを解説。
北沢峠のピストンでも活用出来る情報内容となります。
山小屋泊のメリットを活かして
広河原経由で北沢峠から登山を開始する場合、どんなに早くても登山開始は7時半頃・・・。
一方で北沢峠にある山小屋へ宿泊すれば何時でも出発可能であり、朝の最も美しい眺望を山頂で見ることが出来るのです!
今回、南アルプスの展望台という異名に期待し、朝一番でその素晴らしい眺望を確認して来ました。
登山開始前、長衛小屋から望む小仙丈ヶ岳の横に虹が出ているのを見れたのも、やはり前泊の恩恵なのでしょう。
登山のスタートは甲斐駒ヶ岳と同じ長衛小屋から
登山道は長衛小屋前の橋を渡った所にあります。
甲斐駒ヶ岳(仙水峠経由)は左へ向かい、栗沢山・アサヨ峰にはそのまま真っすぐ、森の中へ吸い込まれて行くルート。
栗沢山までの登山道
登山口から先ず目指すのは「栗沢山」です。
途中、山小屋も水場もありません。出だしからそこそこ急登の岩場に始まり、ひたすら山を登って行きます。
根っ子の芸術を見れる!?
栗沢山へ向かう登山道で特筆すべきは、登山道にはびこる「根っ子」の凄さだろう。
こんな写真を見てしまうと、登山道が荒れているように勘違いされてしまうが、登山道の整備は行き届いています。
前半はこの様な「根っ子」登山道が続きますので、ピストンで下山する際は要注意!
南アルプスの登山道は水分豊富(湿気がある)
湿気がある所には「ギンリョウソウ」がよく生えています。
シラビソの尾根道
尾根道に至ると、美しいシラビソ林が広がります。
森林限界は未だ先。
登山道は根っ子から石が多い道へ変化
標高が上がると、登山道の姿が変わってきます。
根っ子は比較的少なくなり、変わって石が多くなると森林限界が近い証拠。
途中、眺望が開ける場所に立ち止まらない
長い長い樹林帯。やっとの思いで一瞬眺望が開ける場所があります。
そこからは北アルプスの名峰や間近に迫る甲斐駒ヶ岳が望めますが、実は森林限界は直ぐそこ。
ここで立ち止まり長い休憩を行いたい所ですが、もう少し歩けば更に凄い眺望が待っていますよ♪
森林限界手前
岩が大きくゴツゴツして来ました。
木々も少なくなり、森林限界は間近です。
ちょっとした岩登りもありますが、森林限界を越えてからの岩場はもっと大変です。
森林限界突破!
さあ、小休止しましょうか?それともこのまま栗沢山山頂を目指しますか?
意外とここからもうひと踏ん張り必要なので、眺望を眺めながら短い時間でエネルギーと水分補給をしましょう。
やっと仙丈ヶ岳が見えてきました。
甲斐駒ヶ岳も先ほどのように邪魔をする枝がありません!
山頂はあと少し
森林限界を越えるとゴーロ帯のような岩場となります。
足場が悪いので、焦る気持ちを抑えつつ慎重に進みましょう。
栗沢山登頂!
下の写真を見て下さい!
雲海の上に沢山の山々。左は甲斐駒ヶ岳でその奥に浮かぶ島は八ヶ岳です。時間は朝7時前なので、バスで移動して来れば未だ登山も開始していない時刻。
山小屋泊の醍醐味です。
甲斐駒ヶ岳へ朝日が差し込み緑が色濃くなっています。
朝ならでは!白い山肌とのコントラストが最高です。
ここから見る仙丈ヶ岳は優しくなだらかな稜線がまさに「女王」。
北岳から手前に延びる小太郎尾根と小太郎山。
右奥には間ノ岳という、日本の高峰ナンバー2と3の共演ももちろん見れます。
ここまで標準CTで2時間前後!
山頂で眺望を楽しむ時間もお忘れなく。
山頂からの絶景をどうぞ!!
アサヨ峰までの登山道
栗沢山からアサヨ峰までの登山道は決して優しくありません。
北沢峠から登れる山の中では甲斐駒ヶ岳の直登ルートが難しい部類に入りますが、このルートは体力的な面も含めるとそれ以上なので油断は禁物です。
岩場だけじゃない大変さ
栗沢山からは岩場中心の下りですが、鞍部ではハイマツ帯が生息しているので、時期によっては「藪漕ぎ」に近い状態となります。
また、ハイマツ帯の根が登山道を塞いでいるケースもあるため、足元にも注意する必要があることを覚えておきましょう。
ピークが多数
栗沢山とアサヨ峰を結ぶルートは、鳳凰三山にまで繋がる「早川尾根」。
小ピークのアップダウンが激しいことで有名ですが、この短い稜線でも簡単にはアサヨ峰には辿り着けません。
しかし、各ピークからの眺望は素晴らしいので、焦らず前へ進みましょう。
手前のピークが山頂に見えます(そう思ってしまう)が、目的地は未だ先です。
ハイマツ帯が深い場所もあるので注意。
岩登りは避けられません。
樹林帯の中へ巻く場所も出てきます。
ここが一番長い(高い)岩登りになります。
慎重に登れば問題ありません。
アサヨ峰山頂
やっとアサヨ峰の山頂が見えてきました。
右手には北岳の雄姿。まだまだお天気は持ちそうです。
写真は山梨百名山の山頂標柱と仙丈ヶ岳。
岩稜帯のもう一段高い場所にもう一つの標柱があり、そこからの眺望が格別です。
尾根の続く先が分りますか?そう、鳳凰三山です。
そしてその奥に富士山。
栗沢山からの眺望で唯一欠ける富士山が望めるのが、アサヨ峰山頂の醍醐味です。
前の写真で右下に写っていた川。
この奥に広河原があります。
アサヨ峰、もう一つの標柱と小太郎山、北岳、間ノ岳、そして奥には塩見岳。
中央アルプス「御嶽山」の姿も。
北アルプス「乗鞍岳」。
そして来た道を振り返れば、もちろん「甲斐駒ヶ岳」の美しい山容が間近に迫ります。
また、このアップダウンを見れば厳しい道のりも理解できるでしょう。
甲斐駒ヶ岳の後ろには、常に八ヶ岳がそびえています。
鳳凰三山へ続く早川尾根と富士山。
この山頂、この眺望でここを離れることが出来ますか?
登った人間にしか分からない景色がここにあります!
ここまで標準CTで2時間50分。
でも、栗沢山山頂で結構時間を使ったはずなので、もっと時間は経過しているはず。
アサヨ峰山頂からの絶景をどうぞ!!
早川尾根で広河原へ下る
栗沢山、アサヨ峰、このルートは本当に南アルプスの展望台でした!
ずっとこの景色を見ていたいけど、残念ながら下山の時間はいつかやって来ます。
今回は北沢峠へは戻らず、早川尾根から広河原のバス停を目指します。
早川尾根は優しくない
アサヨ峰から鳳凰三山方面へ向かう登山道は急激な下りから始まります。
遠目に尾根を眺めるとなだらかな山容に見えますが、実はアップダウンが多く厳しい道。
滑り易い急斜面を下り振り返る。
ハイマツ帯で分からないが、右側はそこそこのガケになっているので注意!
岩場、ハイマツ漕ぎが交互に現れる。
道を外さないように注意!
手前のピークから次のピークを望む。
一度下まで下り、そしてあの先端へ登るのだ・・・。
木々が深くなり、樹林帯の様相を呈してきたが・・・
直ぐに再び登り、ハイマツ帯をかき分ける。
北岳。今まで見えなかった大樺沢の雪渓が見えるようになって来た。
広河原に近づいている証拠だ。
しかし道は依然ハイマツ帯の中。
森林限界を終え、樹林帯へ入らないと降下しているとは言えない。
徐々に稜線が低くなり、峠が近いことを示唆。
遥か彼方に見える鳳凰三山、地蔵岳のオベリスクまでいつか縦走してみたいものだ。
樹林帯へ
標高は徐々に下がり、シラビソの林に。
ここからはもう眺望は望めない。
登山道が歩き易くなると「早川尾根小屋」に辿り着く。
ここまで急激な下りが無いため、この先急斜面の下りが続く筈なので心配だ。
小屋へ至る登山道は何故かそのまま真っすぐ続いている。
しかし、早川尾根はこの無人山小屋の右手を進みます。
地図、GPSが無い人は道を間違えないように注意!
小屋の周辺は良い登山道になっている。
しかし、小屋の管轄外?になると急激に荒れた道もある。
この様な倒木を避ける際に道を逸れる可能性があるので、慎重に地図を確認しながら正規の登山道を進みましょう。
最後の難関「広河原峠」
今回のルートで一番謎が多いのが「広河原峠」からの下山道。
標準CTが2時間30分と長く、標高差約750mを一気に下るルートの情報は少ない。
人によっては1時間で下ったという話もあるが、大半は2時間30分を要していないようです。
ここできちんと検証します。
写真は広河原峠から来た道を振り返ったもの。
広河原峠の案内板。
峠は少し広い場所になっている。
広河原峠の下降開始!
先ず明確にしなければいけないのは、私は下りが下手で、酷い時には標準CT並みのタイムを要すことです。
その点を考慮し、タイムの参考として下さい。
下降開始は11時35分。
標準CT(2時間30分)で下りれば、登山口には14時05分に到着する計算です。
なお、登山道は最初から急な斜面。
登山道には手が入っているようですが、整備が追い付いていない様子。下の写真はピンクリボンに従い、倒木の下をくぐる必要がありました。
正直、この様なシチュエーションが多く、足が止まることもしばしば。
景色の変わらない、長い長い樹林帯を抜けると少し石が多くなり、そして、川のせせらぎが近づいてくるのが分ります。
沢まで至れば、登山口まではあとわずかです。
簡単な渡渉や橋も渡ります。
そしてこの後は平坦に近い登山道をジグザグに進みます。
そしていきなり林道へ。
正規(標柱のある)登山道よりも広河原寄りに出口が繋がっていました。
時刻は13時05分。1時間30分で下りきった計算なので、標準CT2時間30分よりも1時間早い。
これは私が速いのではなく、標準CTが曖昧なことを示唆していると思います。恐らく平均を取るための「n数」が少ないのでしょう。
検証結果としては、平均的な人は「2時間」の計算で計画を立てればまず間違い無いと思います。
広河原までは林道歩き
この林道は広河原と北沢峠を結んでいます。
広河原までの標準CTは約20分なので、結構長いのです。
北岳へ向かう吊橋を右手に見ながら、広河原のゲートに到着。
このルートで一番大きいメリットは、北沢峠でバスの時間を気にしなくて良いことですね。
ここまで標準CTで8時間20分前後。
アサヨ峰から早川尾根小屋までの2時間と広河原峠の2時間30分が非常に長いのが分ります。
栗沢山・アサヨ峰登山メモ
宇多田ヒカルさん主演で、サントリー南アルプスの天然水CMの舞台となった栗沢山とアサヨ峰のご紹介でした。
今回は少しマニアックなルートを紹介しましたが、決して上級者向けではありません。
北沢峠からの標準CTは甲斐駒ヶ岳や仙丈ヶ岳と比較して短いため、山慣れした人には登り易い山です。
しかし、標準CTが短い理由だけでこの山を目指すことは止めるべきでしょう。
北沢峠から登れる全ての山を登った経験から言えば、栗沢山からアサヨ峰へ至るルートが最も険しく、体力を消耗します。
また、技術レベル的にも甲斐駒ヶ岳の直登ルート並みと考えた方が無難。
南アルプスの展望台と言われるほど眺望が良い山頂には、長居する想定で登山計画を立てましょう。
そして、汗冷えを起こさない対策も施して下さい。
3000mに及ばない標高でも森林限界を越える山。森林限界を越える稜線へ出れば風も通り天候によってはとても厳しい気温となります。
また、足場も同様に悪くなるので注意が必要。
しっかりとした登山装備を整えて下さい。
なお、初春や晩秋には雪が残っていたり雪が降ることもあるので、アイゼンなどの装備も忘れてはいけません。
登山地図は必ず準備!
整備が良くても道迷いする人は必ず出ます。自分は違うと思っていても、いつ同じように遭難するかわかりません。
必ず登山地図を準備しましょう。
登山道具の整理に便利! 道具の整理も忘れずに♪
登山道へのアクセスなどの基本情報はこちらの記事で。